こんにちは、奥田です。
最近、働いて一定の収入がある人の厚生年金額を減らす「在職老齢年金制度」の見直しの議論が行われており、二転三転しているようです。
現行では調整の対象となるラインが65歳前は28万円、65歳以後は47万円ですが、
このことが高齢者の就労意欲を削いでいるという指摘があり、これを引き上げようというものです。
完全に廃止してしまうと、その分給付増が増え、現役世代の負担が増えてしまうため、廃止ではなく、対象者を絞るため引き上げの方向で進み、厚生労働省は今年10月の社会保障審議会では減額の対象となるラインを「62万円超」とする案を示していました。ただ「年金財政を圧迫する」「高齢者の格差が拡大する」などの反発があり、11月には「51万円超」に修正しました。さらにその後、政府・与党はこれを現行の「47万円超」を維持する方針を固め、結局は現状維持になりそうです。
その一方で、60歳から64歳は現行の「28万円超」から「47万円超」に引き上げる方針とのことです。ただ、これだと今後年金受給者は65歳以降になっていくため、効果は限定的なものとなりそうですが、実際に対象になる当事者にとっては大きいかもしれません。
そもそも「在職老齢年金制度」は当初、低所得である高齢者の暮らしの安定が目的でした。
というのも厚生年金は当初、要件に「退職」があったため、在職中は支給されなかったのです。
しかし、当時の高齢期就労は賃金が低く、なかなか賃金だけでは生活できない問題があったため、在職中であっても年金を支給する特例が創設されました。
そして昭和44年に低賃金の60歳台前半を対象に、賃金水準に応じて年金の一定割合を支給する制度が創設されました。
これが現在の65歳前の在職老齢年金の原型です。
その後、高齢就労者が増える中、高齢者の就労を阻害しない観点からの見直しがなされてきました。そのため今では、「低所得者」向けのイメージは薄くなっていますが…。
当初、「低所得高齢者の生活の安定」が目的に創設された在職老齢年金ですが、現在では健康寿命の伸びや就業者の意識の変化などで、高齢期の就労を希望する人の増加と生産年齢人口が減少する中でなんとか労働力を増やしたい国。そして、現役世代の負担増を抑えるため、高所得層への給付額を抑えたい年金制度とこれら3つの事情が重なって、在職老齢年金が持つ役割も変化しているようです。
そうした変化に応じて老後の生活設計も考えていく必要がありそうですね。