新紙幣によるキャッシュレス化促進って?

2024年7月3日、財務省と日本銀行は約20年ぶりに一万円札、五千円札、千円札の新紙幣を発行しました。今回の改刷で特に注目されるのは、紙幣に描かれる人物の変更や、立体ホログラムの導入です。

具体的には、一万円札には渋沢栄一、五千円札には津田梅子、千円札には北里柴三郎が採用されました。千円札と五千円札は20年ぶり、一万円札は40年ぶりのデザイン変更です。

では、政府はなぜこのタイミングで紙幣デザインを刷新したのでしょうか。その背景には、さまざまな目的や意図が存在します。
出所:国立印刷局「新しい日本銀行券特設サイト」

国立印刷局「新しい日本銀行券特設サイト」 より

 

 紙幣デザイン変更の目的

新紙幣の導入には多額のコストがかかるため、一見すると大きなメリットが感じられないかもしれません。しかし、今回の紙幣刷新にはいくつかの重要な狙いが存在します。ここでは、その中から2つの主要な目的を取り上げます。

 紙幣デザイン変更の目的① キャッシュレス化の促進

まず考えられるのは、キャッシュレス化を後押しするための施策です。

日本のキャッシュレス決済の普及率は、他国と比較するとまだ低い水準にありますが、年々着実に上昇しています。経済産業省のデータによると、2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%となりました。

内訳を見ると、クレジットカードが83.5%、デビットカードが2.9%、電子マネーが5.1%、コード決済が8.6%を占めています。

出所:経済産業省「2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました」

経済産業省 2023年のキャッシュレス決済比率

<キャッシュレス決済の利用率推移>

  • 2017年:21.3%
  • 2018年:24.1%
  • 2019年:26.8%
  • 2020年:29.7%
  • 2021年:32.5%
  • 2022年:36%
  • 2023年:39.3%

政府は2019年に「2025年6月までにキャッシュレス決済比率を約40%に倍増する」という目標を掲げており、この目標に向けて順調に進んでいることが伺えます。

しかし、一般社団法人キャッシュレス推進協議会によると、日本のキャッシュレス決済比率は依然として低い水準にあります。例えば、最上位の韓国では95.3%がキャッシュレス決済を利用しており、日本との差は依然として大きいです。今後、4割の目標を達成した後も、さらなるキャッシュレス化の推進が求められるでしょう。

出所:一般社団法人キャッシュレス推進協議会「「キャッシュレス・ロードマップ2023」を公表しました」

【参考】新紙幣がキャッシュレス推進に繋がる理由

一見すると関係が薄そうな「キャッシュレス決済の促進」と「新紙幣発行」ですが、実際には関連があります。

新紙幣が発行されることで、小売店やATMなど現金を扱う機器を持つ場所では、それらを新紙幣に対応させるためのコストが発生します。特に、個人経営の店舗の券売機やバスの精算機などでは、その負担が大きいといえるでしょう。すでに、新紙幣や新500円玉が使用できない店舗を目にした方もいるかもしれません。

このような更新コストや対応の手間が、現金利用の煩雑さを事業者や消費者に意識させ、結果的にキャッシュレス決済への移行を後押しする要因となり得ます。

 紙幣デザイン変更の目的② タンス預金の動きを促進

キャッシュレス化の促進以外にも、もう一つの狙いとして考えられるのが「タンス預金の動きを活性化させること」です。

タンス預金とは、家庭内に保管されている現金のことを指します。日本では数十兆円規模のタンス預金が存在するといわれ、これがマネーロンダリングや脱税の温床になるリスクもあります。政府としては、こうした現金を経済活動に引き戻し、その流れを把握したいという狙いがあります。

新紙幣の導入によって、「旧紙幣が使いにくくなる」といった心理が働き、タンス預金されていた現金が消費や預金に回ることで、経済を活性化させると同時に、政府が資金の流れをより把握しやすくする効果が期待されます。

タンス預金に潜むリスクとは?

タンス預金には、空き巣被害や自然災害によって現金を失うリスクが伴います。銀行に預けていれば、1,000万円までペイオフの対象として保護されますが、自宅に保管している現金はその対象外です。

さらに、家族に知らせず多額の現金を保管しておくと、相続時のトラブルを招く恐れがあります。加えて、現金を手元に置いておくだけではインフレに対抗できず、資産価値が目減りするというデメリットも存在します。

では、新紙幣を利用する際に、どのような点に注意すべきでしょうか?

 新紙幣を利用する際の注意点

新紙幣の導入にあたって、事業者や消費者それぞれに注意が必要ですが、今回は消費者向けのポイントに絞って解説します。

 新紙幣がまだ利用できない店舗がある

新紙幣の導入から1ヵ月が経過しましたが、対応していない店舗はまだ多く存在します。飲食店の券売機やバスの精算機などで、新紙幣が使用できないケースも見られるため、全ての現金を新紙幣に換えてしまうのは避けた方が良いでしょう。

 新紙幣に絡む詐欺に注意

新紙幣に関連した詐欺も増加しています。例えば、「新紙幣と交換する」といった口実で、行政機関や金融機関の職員を装った人物からの電話により被害を受けた例があります。しかし、旧紙幣は引き続き使用可能であり、行政機関や金融機関の職員が直接交換を促すことはありません。このような連絡には注意しましょう。

 まとめ

今回は、新紙幣の概要や政府がその発行に込めた狙い、消費者として気をつけるべき点について解説しました。

20年ぶりに発行された新紙幣には、経済的な効果が期待される一方、キャッシュレス化を見据えた政策的な意図も含まれています。新紙幣をめぐる詐欺に十分注意しつつ、現金とキャッシュレス決済を賢く使い分けていくことが大切ですね。

 

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2024-09-16