「付加年金」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
これは自営業者や個人事業主が毎月400円を年金保険料に上乗せして払うと、将来の年金額が増える公的制度です。
受取額が最大で毎月8,000円増加し、受給開始2年後には支払った保険料の元が取れてしまいます。意外と知られていないお得な付加年金の仕組みやメリットについて紹介します。
付加年金制度は、従来の国民年金保険料に「付加保険料」を上乗せして支払い、将来受け取る老齢基礎年金の受給額を増やす仕組みです。付加保険料の金額は誰でも月額400円と一律で、受給する付加年金の年金額も年間で「200円×納付月」と決まっています。
付加年金は老齢基礎年金に上乗せされて一緒に受け取るため、加入期間も老齢年金と同じで20歳から60歳までの40年間となります。また、その期間内であれば、40年間に満たなくても付加保険料の納付は可能です。
では、付加年金に加入できるのはどのような人なのでしようか。
残念ながら誰でも加入できるわけではなく、自営業者や個人事業主、学生、無職など国民年金の「第1号被保険者」と、「任意加入被保険者(65歳以上の方を除く)」が対象となります。
会社員や公務員など厚生年金や共済に加入している「第2号被保険者」と、「第2号被保険者」に扶養されている主婦などの「第3号被保険者」は加入できません。
厚生年金などに加入していない第1号被保険者は、将来もらえる年金受給額がどうしても少なくなってしまいます。そのため、付加保険料を上乗せすることで、受給額を増やすという狙いが制度の背景にあるのです。
また、「国民年金基金」に加入している人も、制度の対象外となります。国民年金基金も第1号被保険者が上乗せして保険料を納めることにより、年金の受給額が増える制度です。そのため、付加年金との二重加入はできない決まりになっています。
付加年金への加入と付加保険料を支払うには申し込みが必要で、市区役所や町村役場、年金事務所の窓口に必要書類を提出します。付加保険料の納付は申出月からの開始となり、納期限を経過した場合でも期限から2年間はさかのぼって付加保険料を納めることができます。
申し込み後に付加保険料込みの納付書が送付され、国民年金保険料をすでに前納で支払い済みの場合は付加保険料だけの納付書が送付されます。どちらも金融機関やコンビニなどで納付でき、手続きすれば口座振替でも対応可能です。
付加保険料を納付すると、将来受け取れる年金に毎年「200円×納付月」の金額が加算されます。
試算してみると、付加保険料を20歳から60歳までの40年間納めていた場合に受け取れる毎年の年金額は以下のようになります。
200円×480ヶ月(40年)=9万6,000円
加算されたこの9万6,000円を12カ月で割ってみると、毎月8,000円が上乗せされることになるのです。
一方、40年間に支払った付加保険料がいくらかといえば、総額は以下となります。
400円×480カ月(40年)=19万2,000円
つまり、年金受給が始まってから2年後には納付した付加保険料が全額戻り、元がとれてしまうことになります。
では、40年間でなく、もっと短期間の加入だった場合にはどうなるのでしょうか。
仮に付加保険料の上乗せ期間が30年間だった場合、受け取れる毎年の年金額は「200円×360カ月(30年)=7万2,000円」となります。
実際に支払った付加保険料は「400円×360カ月(30年)=14万4,000円」なので、やはり2年間で元がとれてしまいます。加入していた期間にかかわらず、将来2年以上給付を受ければ元がとれる仕組みなのです。
さらに、付加保険料は国民年金保険料などと同様に所得から全額控除できるため、所得税や住民税の節税につながるというメリットもあります。
また、本来は65歳からとなる年金給付開始年齢を先に延ばす「繰り下げ受給」を選べば、国民年金と同様に一定の料率で付加年金額が増額されます。一方で、国民年金と同じく減額はされますが、65歳より前に繰り上げて年金を受け取れる「繰り上げ受給」も可能です。
付加年金のデメリットは、国民年金などと同じように受給開始前に死亡してしまうと年金がもらえないことです。また、65歳から年金受給を始めて2年以内に亡くなった場合には、支払った保険料の方が付加年金の総額を上回り、差額分を損することになります。
付加年金制度は支払った付加保険料の全額を2年でとり戻せるうえ、年金を受給している限りプラスが続くというとてもお得な制度です。
上乗せされる金額は最大で毎月8,000円とやや小額なものの、年間でみれば10万円近い収入となり、超低金利が続く今の時代においては安全で効率的な老後資金対策といえます。
さらに、長いスパンで見てみましょう。
厚生労働省の最新資料による日本人女性の平均寿命は、87.45歳です。仮に40年間納付した付加年金を65歳から87歳まで受け取り続けた場合は、「9万6,000円×22年間=211万2,000円」と、ひと財産になります。
長生きすればするほど得をするうえ、投資と違って目減りするリスクがないという仕組みは、とても大きなメリットといえます。国が整備した長期の小額積立制度と考えて実行すれば、資産形成に向けた第一歩になるかもしれませんね。
参考 日本年金機構 付加年金